写真家ギヨーム・デュボワとたどるナポレオン街道

エルバ島で1年間の亡命生活を送った後、ナポレオンはゴルフ・ジュアンの浜に上陸します。彼の目的はただ一つ、皇帝の地位に再び返り咲くこと。王党派の軍隊を避けるため、彼は内陸ルートでのアルプス越えを試みます。目の前に次々とあらわれる地中海と山の景色は、いずれ劣らぬ美しさ。写真家ギヨーム・デュボワが紹介します。

1814年4月。ナポレオンは退位を余儀なくされた後、エルバ島に追放されます。その時から彼はひとつのこと-国王ルイ18世の手に委ねられた権力を取り戻すこと-のみを考えます。1815年3月1日、彼はヴァロリスのゴルフ・ジュアンに上陸し、王党派の軍隊を避けるためアルプスの山道を通りグルノーブルに出ることを選びます。そこから彼は6日間で、2つの地方(ローヌ・アルプ地方とプロヴァンス・アルプ・コート・ダジュール地方)にまたがる約324㎞の行軍を成功させます。この時ナポレオンが通ったルートは、1932年に正式にナポレオン街道と命名されました。写真家ギヨーム・デュボワが、この伝説的な街道沿いの最も美しい風景のいくつかを選りすぐりました。

アートギャラリーを訪ねて、ムージャンの通りをそぞろ歩く

私はこの村が大好き、なぜなら魂があるからです。ムージャンの丘の頂上に登れば、カンヌからグラースに至るナポレオン街道の最初の区間を見下ろすことができます。地中海沿いの典型的なこの小さな村は、コート・ダジュールで休暇を過ごす人々の間ではとても有名です。それはコート・ダジュール地方のアール・ド・ヴィーヴル(生きることを楽しむ生活様式)がよく表れているからです。20軒ほどのアートギャラリーと絵画のアトリエがあり、ムージャンはとりわけその芸術創作で知られています。小さな路地をぶらぶら歩いて展示してある絵画を鑑賞することに、いつも喜びを感じます。ムージャンはまた美食でも有名です。ポール・ボキューズの教え子が経営するレストラン、アマンディエ・ド・ムージャンAmandier de Mougins (外部リンク) にはひと目ぼれしました!美味しい地中海料理を味わえるんです。

香水の街、グラースを訪ねる

この街は「私の」街。カンヌから約20㎞の香水の都です。ここでは香水は嗅ぐものではなく、生活そのものです。私自身、二つの歴史ある香水の老舗で10年間、香水の製造に携わりました。これらの偉大な会社はいずれも、そのノウハウを駆使して、グラースを香水の都とすることに貢献したのです。ユネスコが認める文化遺産です。グラースを出てカステラーヌCastellaneへ向かうあたりは、私的には、ナポレオン街道の最も美しい部分です。本当に素晴らしい、の一言です。植生が標高と方向(地中海側か内陸側か)によって変化し、どんどんミネラルの度合いを増していく風景に溶け合っています。文明は目につかなくなっていきます。街道沿いに稀に姿を見せる小さな集落は、何も考えずに時代を超えてきたかのようです。とぎれとぎれですが、ルート沿いに海が見えるチャンスが何度もあります。どの瞬間に、それ以上海が見えなくなるのか、当ててみてください。

【香水の聖地グラース】

クラールClarsの滝に感動する

ああ、クラールの滝よ。一般にはほとんど知られていない美しく貴重なもの。約40mの高さから流れ落ちるこの滝は、実に壮大で印象的です。その特徴は?鉱物でできた岩壁が傾いているため、水は岩壁をつたって流れ落ちず、水と岩壁の間を通ることができるんです。この滝へは、エスカニョールEscagnolles村から簡単に行けます。緑に囲まれてのピクニックに理想の場所です。

小さな中世の村、カステラーヌを訪ねる

私は思春期の頃から、標高724mに位置するこの中世の村に魅了されています。山岳風と地中海風の中世の建築が混在するこの村は、海と山を結ぶナポレオン街道の精神を完璧に体現していると言えるでしょう。村の最高点には、その象徴でもある巨大な岩の尖峰、ル・ロックle Rocがそびえ、高さ184mのその頂上には小さな礼拝堂がたっています。私はいつも、ここは結婚式を挙げるのに理想の場所だ、と思っていました!ここからの景観は息をのむほどです。カステラーヌは、ナポレオン街道がヴェルドン川を横切る地点にあり、上流に行けばヴェルドンの標高の高い湖に、下流はあの有名なヴェルドン渓谷に通じています。ヴェルドン渓谷の深さは、フランス随一です。まさしく鉱物の傑作であるこの場所は、自然やカヌーの愛好家、ハイカー、そしてもちろん写真家たちにとってパラダイスです。私がここをこよなく愛する理由が、これでお分かりになるでしょう!

カスティヨンCastillon湖で一休みする

ヴェルドン渓谷は、一連の湖で構成されています。カステラーヌにほど近いカスティヨン湖は、サント・クロワSainte-Croix湖に次いで2番目に広い湖で、そこから眺めるパノラマは、この地方の他の湖とはとても異なる景観となっています。カスティヨン湖は、プロヴァンス地方の湖と山岳地帯の湖の中間的な位置づけになります。私はいつも、その色彩に魅了されるのですが、1948年、ダムの貯水により湖がカスティヨンの昔の村を呑み込んだことに思いを強くはせると、ますます恍惚となるんです。

システロンのボーム岩Rocher de la Baumeを観察する

プロヴァンスとアルプス山脈の間に位置するシステロンは、ナポレオン街道では外すことのできない中世の街です。システロンの住人は、自分たちの街の歴史に誇りを持ち、それを主張します。街は、巨大なボーム岩の正面に広がっています。その岩を見ると、頂上が剣で切り裂かれたような感じを受けます。ここが南部地域の入口で、これがこの場所を全く特異なものにしているのです。