建築家、安藤忠雄が手掛けるパリの「ピノー・コレクション」

ピノー・コレクションがパリのブルス・ド・ コメルス(Bourse de Commerce)にやってきます。ブルス・ド・ コメルスは、日本を代表する建築家、安藤忠雄が改装を手がけるかつての穀物取引所です。美術館として開館することが予告されているブルス・ド・ コメルスは、工事現場の写真、見取り図やコンピュータ・グラフィックスなど関連資料を公開し、この一大プロジェクトの全容を明らかにしています。建築、現代アート、歴史的モニュメントを結びつけるプロジェクトは、パリの春を彩る見逃せない文化イベントです。
オープン時期は、新型コロナウイルスの影響により、2021年に延期されています。

ブルス・ド・ コメルスは、パリジャンやレ・アール地区を訪れる人びとの好奇心をかきたてて止まない歴史的建造物です。工事用の足場と防塵シートに覆われた向こう側で、まもなく3年になる年月をかけ、全面的な改装が施されています。現代アートの収集家(20世紀から21世紀をカバーする5000作品の作品を所有)、フランソワ・ピノーは、名高きブルス・ド・ コメルスを新たに開館させ、自身所有の美術コレクションを常設展示する美術館のネットワークを拡大させます。フランスの実業家で、文化・芸術活動を支援するピノーのコレクションが、新たな一歩を踏み出すことになったのです。ブルス・ド・ コメルスは、パラッツォ・グラッシ、ポワント・ドゥ・ラ・ドゥアン、そしてヴェネツィアのテアトリノといった他の美術館と協力し、独自の展示を行なう、ピノー・コレクションの中心地となることでしょう。

見事な丸天井

新プロジェクトを推し進めるべく、フランスワ・ピノーは建築家の安藤忠雄を支持しています。安藤は、ヴェネツィアの歴史的建造物にピノー・コレクションを収めるための改修作業を手がけました。「ブルス・ド・ コメルスの壁に刻まれてきたパリの歴史にオマージュを捧げ、現存する建物の内部にすっぽりと収まる新空間を作り上げることで、新旧すべての空間が生かされ、現代アートに捧げられることでしょう。過去と現在、そして未来を一つに結ぶ建築です」と安藤は明かしています。安藤の見取り図に描かれた丸天井は、ピノー・コレクションの作品たちを讃えるのにふさわしく生まれ変わっています。

円筒型の空間構造

ブルス・ド・ コメルスが大変貌を遂げる工事は、この種のプロジェクトとしては記録的な期間を要すことになりました。2017年1月に開錠されたものの実際に改修工事が開始されたのはその翌年で、2020年春の工事終了を予定しています。安藤忠雄は、シリンダー(円筒)で建物内部を覆うことを思いつきました。シリンダーの外壁と内壁がトータルで3000平方メートルに及ぶ展示スペースとなり、100〜600平方メートルほどに分割されます。テーマ別、ある芸術家に特化した展示はもちろんのこと、新作や注文作品の展示、ブルス・ド・ コメルス主催あるいは外部に委託した展示などが行なわれる予定です。

金属とガラス

ブルス・ド・ コメルスを象徴する金属とガラスで作られた丸天井は、1986年には歴史的記念物に認定されています。しかし、これよりももっと早い時期から、ブルス・ド・ コメルスは文化財保護を訴える人びとの関心を集めていました。1862年には、ノートルダム大聖堂やサント=シャペル教会と共に建物南東の「メディシスの円柱」が保護対象となり、その後、1975年には建物全体が認定されています。件の丸天井は、改修の枠組みの中で、その扱いがとりわけ注目を集めています。ピノー・コレクションのウェブサイトには、「鋳鉄と鉄による丸天井の骨組みはそのままに、ガラス屋根部分には、塗装された装飾や展示作品を保護すべく、大きく改良された技術を取り入れたガラスが新たにはめ込まれる」と説明されています。ドームのみならず、建物正面部分の内と外、屋根組み、丸天井の足元の壁に張り巡らされた画布など、全面的は修復が施されます。

修復された壁画

ブルス・ド・ コメルスの至宝の一つは、丸天井を囲む円環状の内部に描かれた壁画です。フランス国立美術館管理局から任命されたアリックス・ラヴォー率いる修復チームは、高さ20メートルの場所に足場を組み、数か月にわたって1400平方メートル(高さ10メートル、幅140メートル)もある19世紀の壁画の修復に取り組んでいます!歴史的記念物として認定を受けているこの壁画は、5人の芸術家によって描かれたもので、5大陸間での商取引を讃えています。来館者は、安藤忠雄が考案したシリンダーの頂点に設けられた桟橋から、この「貿易のパノラマ」を(再)発見することでしょう。

ルーヴルとレ・アールの間で

ブルス・ド・ コメルスは、レ・アール地区の最西端、レ・アール庭園のルーヴル通り側、セーヌ川の河岸からもほど近い場所にあります。数分歩けばルーヴル美術館が見えてきますし、10分も歩けばポンピドゥー・センターにたどり着きます。ピノー・コレクションがやってきて、ブルス・ド・ コメルスが大変身し、さまざまな作品が展示されることで、パリ1区のこの界隈の建築遺産、芸術と文化の発信地としての使命がより一層豊かなものになります。フランソワ・ピノーは、美術館の調度品と配置をロナン&エルワン・ブルレック兄弟に、最上階に設けるレストランのシェフは、ミシェル&セバスチャン・ブラス親子に任せることにしました。

あらゆる人びと、あらゆる芸術分野に開かれたブルス・ド・ コメルスは、ピノー・コレクションによる現代美術の展覧会、教育向けプログラム、講演会や懇談会、上映やコンサートやパフォーマンスなどを提案していきます。
ブルス・ド・コメルス ピノーコレクション (外部リンク)
パリ市観光局公式サイト (外部リンク)