ウジェーヌ・ブーダンの足跡を辿る

「空の王者」と呼ばれ、印象派の先駆けであったウジェーヌ・ブーダンと、彼のゆかりの地をご紹介します。

「空の王者」と呼ばれ、印象派の先駆けであったウジェーヌ・ブーダンと、彼のゆかりの地をご紹介します。

ウジェーヌ・ブーダン

1824年にオンフルールにて、水夫の一家に生まれたウジェーヌ・ブーダンは、20歳の時にル・アーヴルにて製紙業と額縁工房を兼ねた小さな店を買い、行きずりの画家たちから託された絵画を展示していました。1851年以降、奨学金の助け受けながら、彼はパリ、ル・アーヴル、そしてオンフルールにて絵画に専念しており、貸しアパートやサン・シメオン農場にて下宿生活を送っていた際に、クロード・モネやヨハン・バルトルト・ヨンキントといった、かの時代の最も偉大な芸術家たちと知り合ったのです。
1859年、彼は詩人であり美術批評も行っていたシャルル・ボードレールと出会いました。そのことでブーダンの才能が開花し、印象派の画家としての彼の役割が決定づけられました。ボードレールはモネとヨンキントとも友人であり、彼らはブーダンの芸術の才能を伸ばすことになったのです。
ウジェーヌ・ブーダンは繊細な色の選択によって、ノルマンディーの空の大気の機微や海岸の景色を素晴らしく表現しています。「空の王者」として知られるブーダンによって描かれた海、海岸の景色、そして連想をかきたてるような空は、豊かな大気に対する情熱と自由な色合いを、印象派運動の中に伝え残しているのです。

ドーヴィルとトルーヴィル

ノルマンディー地方の海に面した二つの街、ドーヴィルとトルーヴィル。19世紀後半、これらの街は、細かい砂で満たされた大きな砂浜、1863年のパリ・ドーヴィル間列車の開通、カジノと水上スポーツの発展などにより、フランス社交界の中心地となったのです。ここでブーダンは『浜辺の風景』の絵画を始めて描きました。小さなカンバスの中にクリノリンドレスをまとった女性たちを簡潔に描写した作品ですが、大気が詩的に表現されており、絵の中で人々が海の景観へと溶け込んでいる様子が分かります。ブーダンは、ノルマンディーに降り注ぐ光の繊細さをこのカンバスの中に収めめたのです。
この作品はル・アーヴルにある、アンドレ・マルロー近代美術館(MuMa)で見ることができます。

今日、トルーヴィルの海岸で板敷き道を歩くと、ブーダンが芸術へと仕上げた光の機微や雲の動きを眺めることができます。この散歩道にみられる魅力的な雰囲気は、かの時代の上流社会から高い評価を受けた素晴らしい別荘も含めて当時のままです。
ドーヴィルでは、今日、この海水浴施設の持つ贅沢な雰囲気を強く感じることができます。この雰囲気は印象派の絵画によって永遠のものとなりました。カジノ、競馬場そして木骨造の豪華な別荘が、パラソルに彩られた広大な海岸に続いています。

ル・アーヴルとセーヌ川河口

ボードレールが「気象学的な美しさ」と評した、ブーダンによってパステルで描かれた空は、この芸術家が際限なく変化する雲を描くことに注いでいた情熱を表しています。セーヌ川河口にてみられる大気の機微は、決して枯れることのない、彼のインスピレーションの源泉でした。
ル・アーヴルにあるアンドレ・マルローの近代美術館(MuMa)には、ルーヴル美術館とオルセー美術館に次いで、二番目に重要なウジェーヌ・ブーダンのコレクションが展示されています。この美術館は海沿いに位置しており、そこの空間と光を最大限に活かす建物の中にて、MuMaは印象派コレクションの中で、そして19世紀から20世紀のフランスの絵画の中で最も重要な、ルノワール、ピカソ、ドガ、クールベ、コローらによる絵画を展示しています。

MuMaでブーダンと他の印象派の作品を鑑賞した後は、海へ出てみましょう。海の水平線を見渡し、ノルマンディーの空と向き合ったこの芸術家の幸せを感じることができるでしょう。ブーダンは自身の日記の中でこう書いています。「空に泳ぐ。雲の繊細さに取り掛かる。大きな雲は奥へ留め置く。遠く、灰色の海霧の中へ。そして、蒼ははじける」。

オンフルール

ブーダンはオンフルールで生まれ、ル・アーヴルで育ちました。彼は根っからのノルマンディー人だったのです。ブーダンは、アトリエを出て屋外で景色を描いた最初のフランス人画家の一人でした。海をよく描いていたこの画家は、空や断続的に降り注ぐ光の機微を受ける船の動きをとらえることを好んでいました。 ブーダンの才能を理解するには、街の中心に位置するウジェーヌ・ブーダン美術館が欠かせません。この美術館は、モネ、クールベそしてヨンキントの絵画とともに、ブーダンの作品を百以上所蔵しています。

テラスで満たされた波止場と、船の振動を感じられる古いドックがある趣あふれるこの小さな港の魅力に身をゆだねてみましょう。梁を持ついくつもの家が隠れている、石の敷き詰められた小道を行くと、ヨンキントとブーダンにインスピレーションを与えた特別な教会がそびえるサント・カトリーヌ広場へとたどり着きます。オンフルールで散策をすること、それは、まるで絵画の中から出てきたような、ノルマンディーの忘れてはいけない大事な場所へと自らを投じることなのです。

サン・シメオン農場

オンフルールで河口にさす光に魅了されたブーダンは、クールベ、ドービニーらとともに、マダム・トゥタンによって管理されていたサン・シメオンの旅籠屋で下宿生活を行いました。ここでは、1855年から1870年の間にあらゆる印象派の作品が生み出されました。ボードレールはここで『旅への誘い』を書きあげました。そして彼と同じように、モネはここで生活をし、自身の『草上の昼食』を完成させました。
(左の、右の)ブーダンの絵画は、にぎやかな会話を生み出す食事を共にする喜びと、飾り気のないごちそうを描いています。美術館に展示されているほかの絵画では、ウジェーヌ・ブーダンは野外での昼食をいくつか描いています。生きる喜びが、印象派によるこの牧歌的な生活の光景に表されているのです。

サン・シメオン農場は、かつては簡素な農場の旅籠屋でしたが、現在はすばらしいスパ付きのレストラン兼ホテルとなっています。河口の景色、植樹された公園そして心地よい音を立てる暖炉が付いた客間は、元気を取り戻すときに絶好の場所です。