大森由紀子さんに伺うフランス菓子の魅力

日本におけるフランスの伝統菓子・地方菓子研究の第一人者として、様々な場面でフランス菓子の魅力を発信する活動をされている大森由紀子さん。ご自身のフランスでの体験と、フランスのお菓子の魅力について伺いました。

フランスのお菓子に興味を持ったきっかけ

私が、高校生くらいのころ、まだフランスのお菓子は珍しい時代でした。もともと、お裁縫や刺繍など、モノを作ることが好きだったのですが、高校でフランス語を勉強していた頃にフランスのお菓子の写真を見て、「こんなに美しいものが世の中にあるんだ!」と感動しました。その時に、食べたいじゃ済まなくて、作りたいと思ったんです。
試行錯誤をしながら、フランスのお菓子の本を買って、食べたこともないのに見よう見まねで作ってみました。当時オーブンがなかったから、代わりに重い無水鍋にシューケーキを載せて焼いてみたところ、ちゃんと膨らんだんです!「ただでお菓子が作れる!いっぱい食べられる!」と嬉しくなり、次々にマドレーヌなんかも作ったりしました。

当時、新しく世に出るようになった、フランスのレストランを巡った書籍などを読み漁る中で、フランスの食文化に魅了され、次第に「絶対にフランスに行きたい!」という夢を持つようになったという大森さん。まっすぐに先を見据え、着実に夢に向かって歩みを進めました

大学ではフランス文学を専攻しました。同級生にお菓子をふるまったり、日仏夫妻のベビーシッターのアルバイトで稼いだお金で、西武百貨店にあった「ルノートル」のカルチャーセンターでフランス料理を習ったりしました。卒業後は大手フランス企業に就職。とにかくフランスに行きたかったから、4年間で必死にお金を貯めて準備をして、ようやく渡仏することができました。
フランスに行ったら、「ル・コルドン・ブルー」で料理を学ぶということだけは決めていて、とにかく手に職をつけようと思っていました。最初は1年と決めていたのですが、あっという間に過ぎてしまったので半年延長し、週3日の授業の合間にいくつかのレストランやパティスリーで研修をしました。

当時はフランス料理の全盛期。今のフランス料理界の巨匠らが皆、パリのレストランで修業を積んでいた黄金時代でした。若きピエール・エルメがシェフを務めていた「フォション Fauchon」や、「アルページュ Arpège」をはじめとする最高級レストランで、大森さんは料理界の天才の卵たちと肩を並べて料理を作っていたのです。

目当てのレストランに2回くらい通って食事をし、テーブルを回ってくるシェフに直談判をして研修生として受け入れてもらいました。当時は女性が厨房に入ることも考えられなかった時代。着替え場所も分けられていなくて、男子と一緒に着替えました。
女子だということだけでも驚かれるのに、しかも日本人。当然いじめられたり、自分の作ったお菓子を目の前で捨てられたりと、つらい経験はたくさんありましたが、やみくもにいろんなことに挑戦しました。

今では、レストランに遊びに行くと、シェフにランチをごちそうしてもらえるような仲だという大森さん。名だたる料理人たちとの信頼関係は、前例のない挑戦にも怖じけずに、ひたすら努力を積み重ねた結果得られた財産なのです。

フランス菓子研究家になるまでのキャリア

帰国してから、ライターの友人に雑誌の編集長を紹介してもらい、ファストフードの業界紙で記事を書くことになりました。フランス料理とお菓子、という自分の専門に必ずしもに合う分野ではなかったものの、真面目に仕事をしていると、記事を見た方々から仕事の依頼が舞い込むように。料理教室を望む声もいただいて、近所の空きアパートで教室も開きました。そんな中で、本の執筆の話をいただいたのです。レシピ本ではなく、フランスの地方菓子についてのエッセーの依頼でした。半年にわたる入念な準備の末、何月何日にどこに行くかなどすべてを決めて、1か月という限られた時間の中で最大限の現地取材を行いました。こうしてできたのが、1995年出版の「フランスお菓子紀行」です。以来、フランス地方菓子・伝統菓子研究としてのキャリアの扉が開きました。

こうして振り返ってみると、今の自分のキャリアは、必ずしも最初から考えていたことではなくて、まさか自分が文章を書くことになろうとははじめは思っていませんでした。選り好みをしないで、ちょっとかじってみれば意外と身近になるもの。まずはなんでもやってみたら良いのではないかなと、若い世代の方々にはお伝えしたいです。

フランスのお菓子の魅力を発信するお仕事

毎年、フランスの一つの地方を訪れて、現地のお菓子を巡るツアーを行っています。有名なレストランやパティスリーの厨房に入れてもらって、その土地のお菓子を実際に作ってもらうという、本当にディープな内容です。2018年は、フォンテーヌブローのフレデリック・カッセル氏のお店を訪れ、お菓子作りのデモンストレーションをしてもらいました。その後に皆で馬車に乗って、フォンテーヌブロー場を一周したのちに皆でピクニックというサプライズが用意されていて感動しました!

お菓子界の巨匠にこれだけの手厚い歓迎をしてもらえるなんて、大森さん以外には考えられないでしょう。長年かけて築いてきた人脈を通じて、大森さんにしかできないお菓子体験が実現しているのです。

料理・菓子教室エートル・パティス・キュイジーヌでは、お菓子全般を扱う「ベーシックお菓子コース」、まだあまり知られていないフランスの地方菓子を扱う「フランス地方菓子&地方料理クラスコース」、そして「フランスのお惣菜コース」を用意しています。生徒さんたちとの会話の絶えない、和気あいあいとした雰囲気の中で、日本で大森さんしか作っていないような珍しいお菓子の作り方も紹介しています。「フランスの地方に脈々と伝わる伝統菓子を、間違って作られてしまわないように、ちゃんと学んでもらうこと。それを一番大切にしています。」

フランスのお菓子の魅力とは

他のお菓子にはない魅力がフランスのお菓子にはあると思います。「フランス人のエスプリから出る、自由と官能の世界」とでも言いましょうか。彼らって、アムール(愛)と食べるために働くという自由が溢れてるんです。それに、フランス人としての誇りが表現されている。地方菓子には、どんなにシンプルなものであっても、脈々と受け継がれる伝統の上に立った自信と誇りが込められて作られています。背景にあるエスプリが深く、だからこそハマってしまうのです。

大森さんは、ピュイ・ダムール、ガレット・デ・ロワのような、ベーシックなお菓子がお好きだそう。昔から受け継がれてきた、基本の生地とクリームの組み合わせがちゃんとできているお菓子です。シンプルだからこそ、甘さ加減やくちどけがわずかな要素で変わってきて、とても奥が深いのだそうです。

老舗のパティスリーは代々受け継がれてきたお菓子作りの基礎ができているので、いつ食べてもおいしいです。ル・ノートルは最近MOFのパティシエが入ってきたことにより、昔のお菓子を一層おいしくしてくれています。また、モンブランで有名なアンジェリーナは、サロン・ド・テも楽しめておススメです。

最近では、ホテル・リッツでいただいたアントルメ・マドレーヌに感動しました。見た目はマドレーヌですが、実は生地の上に柔らかいムースが乗ったお菓子なんです。とてもおいしかった。こうした「だまし絵(トロンプ・ドゥイユ)」のようなお菓子が今フランスでは流行っているんです。

パリで、フランス人にフランスの地方菓子を教えたい!

私はよく謎解きのように、訪れた場所を言ってその土地のお菓子を相手に当ててもらうのですが、例えば「ラモット・ブーヴロンに行ってきた」と言って「じゃあ、タルト・タタンを食べたんだね」と言うのはピエール・エルメだけでした。パリにいても、地方のお菓子を味わうことはできません。フランスの地方は、それぞれの伝統菓子に誇りを持っています。その土地でしか食べられないお菓子を知ると、地方を訪れる楽しみが増えると思いますよ。


大森由紀子(おおもり ゆきこ)
フランス菓子・料理研究家。学習院大学フランス文学科卒。パリ国立銀行東京支店勤務後、パリのル・コルドン・ブルーで、料理とお菓子を学ぶ。フランスの伝統菓子や地方菓子といったストーリーのあるお菓子や、田舎や日常で作られる惣菜などを、雑誌、書籍、テレビなどのメディアを通じて紹介。フランス伝統菓子の魅力を伝える「ル・クラブ・ド・ラ・ガレット・デ・ロワ」の理事、貝印主催の「スイーツ甲子園」審査員&コーディネーターを務める。2016年フランス共和国より農事功労賞シュバリエ勲章を受勲。「フランス地方のおそうざい」(柴田書店)、「わたしのフランス地方菓子」(柴田書店)、「パリのお菓子屋さんガイド」(柴田書店)など著書多数。

エートル・パティス・キュイジーヌ (外部リンク)
大森 由紀子 (ユッキー♪♪)のブログ (外部リンク)

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