フローラン・ダバディさんのパリところどころ

「アンリ・ルソーという画家がいます。彼はとてもエキゾチックなアフリカの絵を多く残したことで知られていて、僕も大好きな画家の1人です。でも実際には、彼は一度もアフリカに行ったことがなくて、全部本で読んだり絵を見たりしてインスピレーションを得て描いていたんです。パリにいながらにして世界を旅するというような経験を、僕も昔から楽しんできました」

そう語るのは、パリ生まれのパリ育ち。生粋のパリっ子ながら日本在住20年近いフローラン・ダバディさん。

「パリの街を深く知るようになると、それぞれの地区がまるで独立した村のようにも見えてきます。多文化都市パリではそれぞれの地区によって住んでいる人々の年齢や社会的地位、民族、カルチャーも様々なので、パリの中で世界旅行ができるような感覚が確かにあります。例えば僕は10歳の頃から外国、とくにアジアの文化に憧れていました。世代的には漫画オタクが増えた日本ブームよりは前の時代です。当時は父親からもらったお小遣いを手に、内緒で13区の中国人街に入り浸って異文化を楽しんでいました」

今回は、ダバディさんが良く知るパリ、おすすめのパリの地区をいくつかご紹介してもらいます。

「僕もパリ生活の中で個人的に思い入れの深い地区があって、それぞれにとても特徴的です。一つは僕が生まれて中学生までの時期を過ごしたパリ16区。そこから引っ越しして住んだ7区。そして、僕が日本に住んでいる間に最も変わったのが印象的で最近話題も多い10区です」

ブルジョワの街、16区

16区 パッシー地区 © Paris Tourist Office - Photographe : Marc Bertrand

まず僕が幼少期を過ごしたのがパリの西側、16区。16区というと典型的なブルジョワの街として知られています。僕が住んでいたのは、トロカデロという緑も公園も美しい地区でした。

人類博物館やシャイヨー宮などがあって、落ち着いた安全な雰囲気。古い建物に交じって20世紀に巨匠ル・コルビュジエに建てられたアール・デコ建築のラ・ロッシュ邸もある閑静な住宅街です。

またテニスの全仏オープンの会場ロラン・ギャロスやサッカー場のパルク・デ・プリンスといった競技場がすぐ近くにあります。実はスポーツの歴史を紐解くと、テニス、サッカー、ラグビーはフランスではブルジョワのスポーツとして発展してきたんです。一方で庶民のスポーツと言えば自転車とボクシングでした。だからブルジョワの街16区にテニスやサッカーの競技場があるのは自然なことなんです。

もちろん市場もあって、パッシーの市場は屋根付きのマルシェ・クヴェールと呼ばれるもの。お互い顔見知りの常連客が多く集まってきて、会話を楽しみながら買い物をします。慣れてくると「今日はサーモンはあまりよくないからこっちにしなよ」とか、特別な情報をくれたりもして、ちょっと京都みたいに相手を見て受け入れるようなところがあるように思います。

16区にはある種不文律が存在していて、アパルトマンで部屋を借りるにも、大屋さんの面接があったりして、誰にでも貸すというわけではない場合もあります。差別というのとはちょっと違って、京都の「一見さんお断り」にも通じる感覚なんです。

文化的でスノッブな7区

7区 ロダン美術館 © Paris Tourist Office - Photographe : Marc Bertrand

僕が16区から引っ越してきたのが、7区。エッフェル塔やオルセー美術館、ボンマルシェ百貨店やバック通り、サンジェルマン・デ・プレ大通りなどがある楽しい地区です。ぜひレンタルサイクル「ヴェリッブ」を借りて回ってみてほしいです。セーヌ河岸や大通りを使って、快適に2、3時間の散策が楽しめます。

7区にはロダン美術館やオルセーなどの大小合わせた美術館もあるので、お勧めは美術館の中のカフェ。ロダン美術館には素敵な中庭にカフェがあるし、ケ・ブランリー美術館にもレ・ゾンブルというカフェがあるので、いい季節に楽しんでほしい。

パリの百貨店の中でも「ボンマルシェ」は、趣味がよく、小さいながらもセンス良くまとめられてて、パリジャンのように買い物をしながらお土産を買うには適していると思う。

市場が賑やかなラスパイユ通りでは、魚屋、八百屋、チーズ屋、日用品など何でもそろいますし、バック通りはちょっとブルジョワの古き良きパリで、商店街もパリ一番のチーズ屋さんバルテレミやキャトルオームなど有名店があります。パン屋では日本にも来ているパン・エ・デ・ジデ(pain et des idees)があって、ナチュラリアという今ブームのビオ系のお店も目を引きます。

7区は僕にとっては文学の地区でもあって、フランス文学の作家や文化人も多く住んでいたことでも知られていて、スノッブだけれども文化的でオープンな雰囲気がありますね。

パリのお洒落界隈10区

10区 サン・マルタン運河 © Paris Tourist Office - Photographe : Amélie Dupont

この20年で一番雰囲気が変わったのが10区。正直、かつての10区は今とは違うイメージで、サンドニ周辺はいわゆる娼婦街だったし、東駅の方に行けばちょっと暗い路地とかもあって、下町ながらに治安もそれなりでした。それが今はもうすっかりお洒落な街に変わって、今のパリが最もよく感じられる地区になっています。

10区は北駅、東駅から大きなレピュブリック広場あたりまで。いろんな民族の人々が共存して、たくさんの若いカルチャーを感じることができます。シャトー・ドー界隈はアフリカの香りがするし、アフリカ由来のファッションやモード、床屋さんなんかも面白い。パラディ通りやフォーブール・ポワッソニエあたりは気さくな下町気質が楽しめます。

地下鉄エチエンヌ・マルセルは話題の北マレ地区。北マレはBoBo(ボボ)と呼ばれ人々のライフスタイルに特徴づけられます。洗練された新しいライフスタイルを志向する彼らをはっきり定義づけるのは難しいけれど、例えばBIOやビーガン、エコロジー、自転車、マルチカルチャー、カフェなどのボキャブラリーがそれを表現しています。ビーガンホットドッグやバーガーなど、ファストフードを健康に良い形でリメイクするっていう流行がパリに入ってきたのがこの地区。ジャジャなどの有名店も多い。

マルチカルチャーな彼らが好むようなレストランも多くて、シリア料理から、バングラディシュ料理、「ななし」というオーガニック日本料理もある。

フォーブール・サン・マルタン通りに出ると、ここは大衆演劇の街。パリジャンは週末によく劇場やコンサートに行くけど、観劇後のレストランやバーまで、この界隈で全部済ますことができるんです。

パリ旅行だとまずはエッフェル塔、凱旋門、ルーブル美術館などの観光地巡りになって、それもパリの楽しみですけど、2度目、3度目になったらパリのエスニックな面に目を向けてみると、また新しい発見ができて面白いと思います。

パリは常に変化し続けてきた街です。今の時代のパリをぜひ体験してほしいですね。

フローラン・ ダバ ディ 1974年パ リ生 まれ。

パリの INALCO(国立東洋言語文化学院)日本語学科で日本語の学位取得。1998年に来日し映画 雑誌 『プレミア』の編集に関わる。99年 から02年までサッカー元日本代表トル シエ 監督の通訳・アシスタントを務める。サッカーだけでなくテニス番組のナビ ゲー ターやサイクルロード レース番組でゲスト解説を務めるなど、ス ポーツジャー ナリ ストとして活躍。フランス大使館のスポーツ/文化イベントの制作に関わ る。言語はフラン ス語、英語、日本語ウェブ サイ ト「Dabadie.TV」(http://dabadie.tv/ (外部リンク)

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