ツール・ド・フランスを追いかけて 山口和幸さん

夏のフランスの風物詩のスポーツイベントと言えば、ツール・ド・フランス!この世界最大の自転車レースに随行して25年間取材されているスポーツジャーナリスト山口和幸さんに、ツール・ド・フランスの魅力とちょっと変わったフランス旅行のお話を伺いました。

France.fr : 世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスの魅力ってなんでしょう?

山口さん: ツール・ド・フランスってご存知の通り、一般の公道で自転車レースをしながらフランス中を回るんですが、コースが毎年変わるのが特徴です。そうすると地方の小さな村でも何年かに一回はツールが通ることになって、もうお祭りみたいな、サーカスのような趣があるんです。

France.fr : サーカスが町にやって来た、という感じですか。

山口さん:実際に選手が通り過ぎるのはわずかな時間ですが、一瞬では終わらない楽しみがあるんです。その日は朝からいろんな車両が普通の生活道路を通って行きます。関係車両が通り、1時間前になるとキャラバン隊という賑やかな仮装をした自動車たちが通ってお菓子や物を配っていきます。テット・ド・クルスっていう先導車両が通って、何台ものヘリコプターが飛んで来て、そしていよいよ選手が来るっていう、その日1日楽しめるイベントなんです。またツールが通る年には、夏祭りもその前後1週間くらいに合わせて開催することもあるようで、村にゆかりのある人たちが全国から集まって来て、お祭り気分でその日を待つんです。それが3600km、何百という市町村でそんなことをやってる、みんなが楽しめる大イベントなんです。

France.fr : フランス人もテレビ中継を見ながらバカンスを過ごしますね。男の人はレースを見て、奥様方は各地の風景を見ているなどと言ったりもします。

山口さん:コース上に世界遺産が随所にあり、中世の歴史的建造物が街に必ずあります。空撮で見るフランスの景観は真っ青な芝生、石造りのカテドラルや街並みがあって、本当に世界でも一番美しい景観です。そういった絵葉書の世界の中を、カラフルなジャージを着た選手たちが駆けていくわけですから、美しい中継を見るのも興味深いですよ。

©B.Bade

France.fr : 実際にツールを見に旅行をする人も多いとか。

山口さん:近年は海外からの旅行客も多くなって、特に日本の人たちの姿が増えました。日本人選手を応援したり、あるいはJSportの中継を見て虜になった人たちが来たり。しかも最近は美しいフランスの景観から自転車レースが好きになったという海外旅行好きの女性層が多いそうです。プラスアルファで選手たちの鍛え抜かれた肉体美の魅力とも相まって、女性ファンが多いのもうなずけます。

France.fr : 毎年ツールに随行して取材されるわけですが、取材する側にとってはどんな旅なんですか?

山口さん:私の場合は全行程となる23日間を帯同するわけですが、現地では車を自分で運転して移動します。そしてレースが始まれば毎日移動で、ホテルも連泊することはほとんどなくて、毎日違う街のホテルに宿泊します。たいていはリーズナブルなホテルで、大規模な駐車場を備えた郊外のホテル群、サントル・ホテリエをよく利用するのですが、ホテル予約は大手の予約サイトが便利なので信頼して利用しています。

France.fr**:**自分で移動も宿泊も手配する、個人旅行のプロフェッショナルですね。参考になりそうです。旅といえば、食事はどうですか?

山口さん:多くの選手はチームに帯同するシェフが作る食事を食べるんですが、我々取材陣は地方それぞれのグルメが楽しみです。たとえばマルセイユだったらブイヤベースといった郷土料理とか、土地のワインとチーズですよね。

レースの後は毎日すぐに日本に原稿を送るんですが、ボジョレーヌーボーと同じ法則で、取材陣1400人の中で1日の始まりが一番早いのは日本なわけで、必然的にボクの締切が一番早いんです。だから一番早く飲みに行ける(笑)。

あと外食が続く事になると、どうしても野菜が不足するんです。そういう時はホテルやショッピングセンターのカフェテリアやフードコートの食事をたまに入れると、付け合わせが取り放題だったりして、野菜不足を補えるんですよ。また日本の米が欲しくなったらどの町にも必ずある中華料理屋に行ったりとか。どの町に行っても、だいたいどの辺にレストランがあるか、だいたい嗅覚で分かるようになりました(笑)。

1997年ツール・ド・フランス初日。この日からフリー記者として全日程を単独で追いかける日々が始まった。撮影=仲沢隆

France.fr**:**まさにフランス中くまなく巡っている山口さんですが、中でもツール観戦でオススメの場所はありますか?

山口さん:なんと言ってもアルプスです。世界有数のリゾート地で、ツールの勝負所でもあるので、「どこで見たらいいですか?」って聞かれるといつもアルプスを勧めています。コテージの予約は1週間単位だったりするので、ツールが通る前後1週間は現地入りして、バカンスを楽しみながら、自分でも自転車でコースに挑戦したりしながら当日を迎えるような、ゆったりした観戦がいいですよ。ホテルはラルプ・デュエズという最高峰の舞台はなかなか取りづらいんですが、ちょっと離れたグルノーブルならリーズナブルに予約も取りやすいです。10月に翌年のコースが発表されたら、アルプス、ピレネーの近くをまず予約して下さい。現地で見たいという夢があるならまず押さえる。お金は半年かけてそのあとに貯めていくと。

France.fr: お金と有給は後から。一年がかりの旅ですね。今は自転車ツーリズムも盛んですね。

山口さん:そうですね。フランスは国土に余裕があるので、主要な幹線道路沿いには自転車専用道路が整備されています。自転車は持っていってもいいし、レンタルもできます。

ツールに協賛する自転車メーカーのポーターサービスなどのサポートも充実しています。荷物はクルマに積んでもらい、自分たちは自転車で次のホテルまで行くだけ。それもサポートカーが後ろについてパンクなどのトラブルに対応するので、安心して自転車旅行ができます。冬よりも夏場の方がいいですね。

「ツールの巨人」ことオクタヴ・ラピーズ記念像。初のピレネー トゥルマレ峠を制した英雄。自転車観光の名所になっている © Midi-Pyrenees Viet

France.fr**:**今年はデュッセルドルフスタートですが。今年の見所は?

山口さん:今年はコースどりが独特で、右回りとも左回りとも言い難いんですが、フランスのすべての山岳地方を回りますね。5つの山脈を駆け巡るハードなコースです。山の素晴らしい風景が楽しめますよ。マルセイユ、ポー、ルピュイ・アン・ブレーなどの観光にも良い町や、ワイン畑の中を走りながら回ります。おそらく、誰かの圧勝というようなレースにはならないと思っています。

France.fr : では、フランスファンの皆さんに、ツール・ド・フランス観戦のアドバイスはありますか?

山口さん: TVでレースを見ていると興奮の頂点だけをずーっと映し出してますが、それ以外は意外とのんびりしているんですね。現地での観戦は一日中がお祭りで楽しい雰囲気です。そういったレースの周辺にこそフランス文化の真髄が感じられて本当に面白いですね。ぜひ現地で観戦してみて下さい。

あと、フランス人はみんな温かい人たちで、21年間でイヤな思いは一度もしたことがありません。「ボンジュール」って挨拶程度のフランス語でいいので、声をかけてみればみんな親切にしてくれますよ。

山口和幸(やまぐち・かずゆき)

ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』 (外部リンク) (光文社)。講談社現代新書『ツール・ド・フランス』 (外部リンク) 。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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2017ツール・ド・フランスの大会期間中は『講談社現代新書ツール・ド・フランス』の電子書籍版が半額キャンペーンを実施。また期間中はtwitterの@PRESSPORTSで現地情報を発信。質問も受付中。https://twitter.com/PRESSPORTS (外部リンク)

今回のインタビューは、自転車と共にゆったりとした時間を楽しめる、OVE南青山で収録しました。http://www.ove-web.com/minamiAoyama/ (外部リンク)